
無駄吠えを止めさせたくて大声で叱ったけれど、
かえって興奮してしまった…

留守番中に失敗したおしっこを目の前に見せて叱ったけど、
理解していないみたい…
愛犬のしつけで、つい私たちは「してはいけないこと」に焦点を当ててしまいがちです。
しかし、わんちゃんの学習メカニズムにおいて、「叱る(罰を与える)」行為と「教える(望ましい行動を誘導する)」行為は、全く異なる結果を生み出します。
しつけの目的は、わんちゃんに恐怖を与えることではなく、「どうすれば褒めてもらえるか」「どうすれば飼い主が喜ぶか」という、望ましい行動の正解を理解させることです。
科学的な研究に基づくと、罰や威圧的な方法によるしつけは、わんちゃんの恐怖心や不安を増大させ、飼い主との信頼関係を破壊するだけでなく、最終的に攻撃行動を引き起こすリスクさえあります。
この記事では、まず「叱る」がわんちゃんの脳に与える悪影響を解説します。
次に、多くの飼い主がやってしまいがちな絶対NGな3つの行動を提示します。
そして最後に、愛犬の学習意欲を高め、自発的に良い行動を選ぶようになる効果的な「教える」ための鉄則を徹底解説します。
科学的真実:「叱る」が学習を妨げる理由!
なぜ、愛犬を叱っても問題行動が改善しないのでしょうか?
それは、わんちゃんの学習が「行動の結果、何が起こるか」という関連付けによって成り立っているからです。
わんちゃんは「なぜ」叱られたかを理解できない
わんちゃんは人間の言葉や論理を理解できません。
わんちゃんが理解できるのは、「直前に行った行動」と「直後に起こった出来事」の関連性だけです。
- 例えば、ソファで粗相をした後に飼い主が帰宅し、それを見て叱られたとします。
わんちゃんが関連付けるのは「粗相をしたこと」ではなく、「飼い主が玄関に入ってきたこと」です。 - その結果、わんちゃんは「粗相」を止めず、「飼い主が帰宅すると嫌なことが起こる」と学習し、帰宅時に怯えるようになったり、飼い主の見ていないところでこっそり粗相をするようになったりします。
罰による「行動の抑制」は根本解決ではない
体罰や大声で叱ることは、わんちゃんに恐怖心を与え、一時的にその行動を「抑制」することはできます。
しかし、それは「なぜその行動をしてはいけないか」を教えたことにはなりません。
恐怖心によって抑えられた欲求は、別の形の問題行動(例:破壊行動、過剰なグルーミング、逃避行動)となって噴出したり、飼い主への信頼の欠如につながり、攻撃性として現れたりするリスクがあります。
しつけで絶対NGな「3つの行動」
多くの飼い主が無意識に行ってしまいがちな、わんちゃんの学習と信頼関係を損なうNG行動を
解説します。
【NG1】体罰や物理的な威嚇
- 例: 叩く、新聞紙などで床を叩いて音で脅す、マズル(口元)を掴んで押し付ける、首輪を強く引っ張る。
- 影響: わんちゃんは飼い主を「信頼できるリーダー」ではなく「予測不能で怖い存在」と認識します。
特に物理的な威嚇は、わんちゃんのストレスホルモンであるコルチゾールを上昇させ、問題行動を根本的に悪化させます。
【NG2】吠えているときに大声を出す
- 例: 無駄吠えを止めさせようと、「静かに!」と大声で叫ぶ。
- 影響: わんちゃんは、飼い主が自分と一緒に吠えている、あるいは「自分も一緒に興奮してくれた」と勘違いし、吠える行動をさらに強化してしまう可能性があります。
また、飼い主の声のトーンが上がることで、わんちゃんの不安が増幅し、パニック状態に陥ることもあります。
【NG3】時間が経ってからの「後出し叱り」
- 例: 留守番から帰宅後、散らかった部屋や粗相を見て叱る。
- 影響: わんちゃんの記憶は数秒間しか持続しません。
帰宅後に叱られても、わんちゃんは「なぜ叱られているか」を理解できず、ただ「飼い主の機嫌が悪い」とだけ認識します。
この行動は無用な恐怖を与えるだけで、しつけの効果はゼロです。
効果的な「教える」ための3つの鉄則!
ポジティブな方法でしつけを行うことは、愛犬の自発的な学習を促し、飼い主との絆を深めます。
鉄則1:良い行動を「言葉+ご褒美」でマークする
- 「正解」を明確に: わんちゃんが望ましい行動(例:座る、待つ、静かにする)をしたら、その瞬間に「よし!」などの明確な合図の言葉(マーカー)をかけ、直後にご褒美を与えます。
- 即時性が命: このマーカーとご褒美は、行動が起きた1秒以内に行うことで、わんちゃんは「今やったこの行動が、ご褒美につながった」と正確に学習できます。
鉄則2:環境を整備し「失敗を予防」する
- 予防が最良のしつけ: わんちゃんが失敗する状況を、あらかじめ飼い主が取り除いてあげることが、最も効果的なしつけです。
- 具体例:
- 噛まれたくないものは片付ける(→破壊行動の失敗を予防)。
- トイレを成功させるまで行動範囲を限定する(→粗相の失敗を予防)。
- 興奮しやすい状況ではクレートに入れる(→過剰な興奮による失敗を予防)。
- 噛まれたくないものは片付ける(→破壊行動の失敗を予防)。
- 成功体験の積み重ね: 失敗を防ぐことで、わんちゃんは自然と「正解の行動」を選択する機会が増え、良い習慣が定着します。
鉄則3:短時間で一貫した「成功体験」を積み重ねる
- 集中力の考慮: わんちゃんの集中力は長く続きません。
トレーニングは1回あたり3〜5分程度の短時間で集中的に行い、必ず成功で終わらせることが重要です。 - 一貫性の徹底: 家族全員が同じコマンド(言葉)と同じルールで接することで、わんちゃんが混乱することなく、確実に学習を進めることができます。
信頼関係を築く「正しい感情の伝え方」
しつけの最終的な目標は、愛犬とのコミュニケーションを円滑にすることです。
感情を正しく伝えるためのトーンとボディランゲージを意識しましょう。
- 「褒める」時の声: 高く、明るく、楽しそうな声。
愛犬の興奮を誘い、行動への意欲を高めます。 - 「注意する」時の声: 低く、落ち着いたトーンの声。
威嚇ではなく、「その行動を中断してほしい」という冷静な意図を伝えます。
低い声はわんちゃんに、安心感を与えるカーミングシグナルの役割も果たします。 - ボディランゲージ: 叱る時や怒っている時に、真正面から凝視したり、体を覆いかぶせたりするのは威嚇とみなされます。
常にリラックスし、体を少し斜めにして接することで、安心感を与えることができます。
まとめ:「叱る」と「教える」の原則!

| 行動の要素 | 叱る(罰) | 教える(褒め) | 飼い主がすべきこと |
| 学習効果 | 低い (恐怖による抑制) | 高い(自発的な意欲) | 「正解」を教えることに集中する。 |
| 犬の感情 | 恐怖、不安、不信感 | 喜び、安心感、満足感 | 失敗しても冷静に環境を修正し、成功した瞬間に褒める。 |
| NG行動 | 体罰、後出し叱り、 大声 | 失敗の原因を 愛犬のせいにしない。 | 環境整備と一貫したポジティブな声かけを徹底する。 |
わんちゃんのしつけは、単に「問題行動を止める」ことではなく、「どうすれば愛犬がこの社会で幸せに暮らせるか」を教える共同作業です。
恐怖を与える「叱る」方法から、信頼と喜びで満たされた「教える」方法に切り替えることで、愛犬との絆はより深く、確固たるものになるでしょう。


